神戸地方裁判所伊丹支部 平成6年(モ)163号 決定 1997年9月09日
債権者
宝塚市
右代表者市長
正司泰一郎
右代理人弁護士
原井龍一郎
同
矢代勝
同
田中宏
債務者
藪野孝也
右代理人弁護士
西川雅偉
同
竹下政行
主文
一 債権者と債務者間の当庁平成六年(ヨ)第一四号建築工事続行禁止仮処分申請事件について、当裁判所が平成六年六月九日になした仮処分決定はこれを取り消す。
二 債権者の前項記載の仮処分申請を却下する。
三 第一項記載の仮処分申請費用及び本件異議申立の費用はいずれも債権者の負担とする。
事実及び理由
第一 申立
主文同旨
第二 事案の概要
一 本件は、債務者が宝塚市内においてパチンコ店の営業をするべく同店舗の建築を計画したところ、債権者の代表者である宝塚市長が、「宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例」(以下「本件条例」という。)に基づき右建築につき不同意処分をなし、右建築を続行しようとする債務者に対し、本件条例に基づき建築行為中止命令を発したうえ、債権者において建築工事続行禁止の仮処分を申立て(当庁平成六年(ヨ)第一四号建築工事続行禁止仮処分申立事件。以下「本件仮処分事件」という。)、これに対して当裁判所が平成六年六月九日に建築工事続行禁止仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)をなしたことから、債務者が右申立における被保全債権の不存在及び保全の必要性の欠如、さらには仮処分申立権自体の不存在等を主張して本件仮処分決定の取消及び右申立の却下を求めるという事案である。
二 争いのない事実等
本件仮処分決定書「第二 事案の概要」の「一 争いのない事実」中の1ないし4及び別紙物件目録をそれぞれ本決定に引用し(なお、同1中において、本件条例四条の冒頭に「市長は、前項の規定により」とあるところは「市長は、前条の規定により」とそれぞれ訂正する。)、その末尾に以下の各事実を追加する。
「5 本件土地については、債務者がこれを所有していたところ、平成六年二月一五日売買を原因として、債務者が代表者を務める有限会社サンエース宛の所有権移転登記がなされている。
本件土地は、都市計画法上、準工業地域に属しているところ、平成八年二月一三日時点での用途地域見直しの際に、特別工業地区の指定が併せてなされた。
6 当庁は、平成六年六月九日、債権者の申立を全部認容する内容の本件仮処分決定をなした。
債務者は、本件仮処分決定後、本件工事を一時中断した状態にあるものの、当庁に対し、早期の本件仮処分決定の取消及び本件仮処分事件申立の却下を求め、本件工事の続行につき積極的な姿勢を示している。
なお、債務者大日建設株式会社は本件仮処分決定に対し異議申立をしていない。
7 債権者は、平成六年七月二九日、神戸地方裁判所に対し、債務者らを被告として、本件工事の続行禁止を求める訴訟を提起したところ、右大日建設株式会社が同裁判の口頭弁論期日に出頭しなかったことから、同社に対しては同年一一月三〇日に請求を全部認容する旨の判決がなされたが、債務者藪野については、平成九年四月二八日に原告の請求を全部棄却する判決がなされ、同訴訟事件は控訴審に係属している。」
三 争点と当事者の主張の要旨
1 被保全権利の存否
(一) 債権者が債務者に対し、本件工事の続行禁止を求める権利の根拠とする本件条例が、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(昭和五九年法第七六号改正後の同法。以下「風営法」という。)及び風営法に基づく兵庫県の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例」(昭和三九年兵庫県条例第五五号。ただし、昭和五九年兵庫県条例第三五号改正後の同条例。以下「県条例」という。)に抵触して違法となるか。
(1) 債権者
a 目的・規制方法の相違
風営法及び県条例の目的は、風俗環境の保持、少年の健全な育成に対する障害行為の防止、風俗営業の規制及び業務の適正化という限定されたものであるのに対し、本件条例の目的は、宝塚市における良好な住居環境、自然環境及び文化、教育環境の確保であり、同市における右の各諸点に関する特徴を保全、推進する町づくりを目指すという環境の積極的な保全策というものであるから、両者の目的には顕著な相違がある。
また、規制方法においても、風営法及び県条例が営業規制であるのに対し、本件条例では建築規制であるから、この点でも両者には顕著な相違がある。
以上のとおり、風営法及び県条例と本件条例の間に抵触関係はない。
b 風営法による規制の最低限度性と本件条例の許容性
仮に、風営法及び県条例と本件条例の目的が一部において重なり合うとしても、風営法はその目的に基づく規制に関して全国的、全国民的見地からする規制の基準を示すものにとどまり、地方自治体が地域の実情に適したより強度の規制を行うことを禁止していない。
そして、債権者は、前記のとおりの合理的な目的のもと、建築不同意とする部分を一義的に限定し、実質的に規制を強化する対象地域を宝塚市の総面積に比して僅かな面積にとどめたうえ、宝塚市長が対象店舗等の建築等に対する同意・不同意をするにあたって宝塚市ラブホテル等審査会の審査を経ることとし、また、規制違反に対しては、風営法及び県条例と異なり、市長において建築中止、原状回復等の命令を発するにとどめる等の内容の本件条例を制定したものであり、さらに、本件土地が実質的には住居地域と評価できる地域に所在しているという実情にも照らせば、本件条例が風営法及び県条例に抵触し違法と評価されることはない。
(2) 債務者
a 風営法及び県条例と本件条例の目的は、いずれもパチンコ店を含む風俗営業施設の建築、営業の場所的規制であって異なるところはない。
b 風営法及び県条例は、パチンコ店の営業禁止区域を一定の用途地域に限定しており、それ以上の規制範囲の拡張を許容しない趣旨のもとに、特定施設から一定の距離にある場合を除き、原則として準工業地域でのパチンコ店の営業を禁止していない。
一方、本件条例は、宝塚市内の商業地域以外の地域でパチンコ店営業用建物の建築を禁止し、もって同地域でのパチンコ店営業を規制することにより、風営法及び県条例において原則的に許容されている地域におけるパチンコ店の営業までも全面的に禁止するというものであるから、風営法及び県条例に反して規制を実質的に強化したものといえる。また、規制方法をみても、規制対象地域の面積は決して小さいものではないこと、右規制が一律全面的禁止であることからすれば、宝塚市長によるパチンコ店等の建築に対する同意または不同意をするにあたり宝塚市ラブホテル等審査会の審査といった手続があることは無意味であること、本件条例の規制方法として刑罰的手法を採用していないことにより直ちに本件条例の制裁内容や程度が風営法及び県条例の制裁内容及び程度に比して軽微であるとはいえないことの諸点に照らせば、本件条例の規制方法が風営法及び県条例との抵触による違法を免れさせ得るものとはいえない。
(二) 本件条例が建築基準法に抵触し違法となるか。
(1) 債権者
a 目的・規制方法の相違
建築基準法は、建築物相互間あるいは各用途相互間において悪影響を及ぼすことを防止しようとする消極的な規制目的を有するものであるのに対し、本件条例は、地域の特徴を保全、推進して積極的に特定のイメージの町づくりを目指そうとする積極的な規制目的にかかるものであって顕著な相違がある。
b 建築基準法による規制と本件条例の許容性
仮に、建築基準法と本件条例の目的が一部において重なり合うとしても、建築基準法は、積極的な町づくりという地域的な必要性が認められる場合に、地方公共団体が条例により独自の規制を行うことを否定していない。
そして、債権者は、本件土地の所在する一帯の地域の住宅地域化が顕著に進行しているという実態と住民の要請を受けて、前記のような良好な町づくりという環境の積極的な保全策という観点から本件条例を制定したものであり、本件条例は、建築基準法を補完するものといえる。
ちなみに、用途地区の実態は長い時間を経て徐々に変容していくものであり、右変化の兆しのみで用途地区の変更や特別用途地区の指定に直結させ得るものでないのみならず、特別用途地区の指定可能地域は限定されていることから、用途地区の変更ないし特別用途地区の設定によって本件条例の目的の達成に常に役立つわけではない。
(2) 債務者
建築基準法は、同法四八条に規定する各用途地域における建築物の制限ないし禁止を超えて地方公共団体が別段の規制を設けることを容認しておらず、地方公共団体がいかなる環境の町づくりを行うかについては、都市計画法に基づき、用途地域の変更あるいは特別用途地区の指定によりこれを実現するという法的システムを採用しているものであるから、本件条例は建築基準法に反し違法である。
(三) 本件条例が、職業選択の自由を侵害するものとして憲法二二条一項に反し無効となるか。
(1) 債権者
本件条例は、土地利用規制という計画手法による環境の積極的な保全策であり、その規制方法については債権者の立法裁量の問題であり、憲法二二条一項に抵触する問題は発生しない。
(2) 債務者
本件条例は、市街化調整区域全域及び商業地域以外の用途地域でのパチンコ店等の職業選択の自由を全面的に禁止するものであり、しかも右禁止を例外的に解除する場合は一切存在しないというもので、極めて広汎かつ高度な制約というべきところ、債権者において右のような規制を行うことについての必要性、合理性及びより制限的でない他の規制手段の不存在につき何ら疎明していない(ちなみに、より制限的でない他の規制手段として、建築物等の外観並びに騒音あるいは営業時間等に対する規制、一定の保護施設からの距離制限等が想定されるところである。)から、本件条例は職業選択の自由を保障する憲法二二条一項に反する。
(四) 本件条例に基づく本件命令を根拠として本件仮処分決定の申立をすることは可能か。
(1) 債権者
本件条例は、建築中止命令に従わない場合に行政上これを強制的に履行させ得る規定がなく、また、その性質からして行政代執行法上の代執行によることもできず、自力救済により公益を図る途がない。一方、現憲法下においては、公法と私法の厳格な峻別は維持されておらず、司法的強制の原則のもとで行政行為の司法的執行の立場が容認されていることや、私人が行政庁の処分により課された行政上の義務を遵守しない場合にこれを放置するしかないというのは不合理であることに照らせば、債務者が債権者から課せられた不作為義務違反を継続するという本件のような場合には、その義務履行に関し裁判所に対し仮処分決定を求めることは可能というべきである。
(2) 債務者
債権者が被保全権利の根拠とする本件条例八条の命令は行政指導の一環にすぎないものと解され、かつ、右命令違反者に対して行政上の自力執行手段を定めていないことからすれば、前記命令に基づき、債権者において本件仮処分決定申立をなし得るような義務履行請求権(被保全権利)が発生するものと解することはできない。
2 保全の必要性の有無
(一) 債権者
本件工事の続行及びそれによる債務者建築物の完成は、本件条例等により保全しようとする良好な住宅、自然及び文化環境、並びに、債権者において積極的に推進、実現しようとする町づくりの施策に対する回復不可能な打撃を及ぼすものというべきであり、他方、本件仮処分決定が発せられることにより債務者に生じる損害は金銭的補償をもって回復可能な性質のものであることに鑑みれば、本件における保全の必要性は極めて大きい。
(二) 債務者
前記のとおり、本件条例及びそれに基づく本件命令についてはその適法性に重大な問題があり、その規制の実質が職業選択の自由に対する侵害をともなっているところ、前記のとおり、本件条例もその目的を達成する手段としては、本件条例の規定する手法以外で、より制限的でないものも少なくないこと、債務者には本件仮処分決定の申立が認容されることにより経済的に重大な損害が生じることが明白であるなどの事情に照らせば、保全の必要性はない。
第三 判断
一 本件条例の目的・規制内容について
1 本件条例の制定経緯
本件仮処分決定書「第三 争点に対する判断」の「一 争点1について」中の1を本決定に引用する(ただし、冒頭の「本件記録」は本件異議手続終結までに当事者双方から提出された主張書面及び疎明資料を含む。)とともに、
その(二)の冒頭に、
「 債権者は、昔から歌劇と温泉の町といったイメージを有している。実際、宝塚音楽学校、宝塚造形芸術大学及び日本で唯一演劇科が設置されている公立高校である宝塚北高校が存在するほか、宝塚市主催にかかる『宝塚ベガ音楽コンクール』、『ミュージカルフェスティバル』及び『宝塚国際室内合唱コンクール』が開催されるなど芸術的な色彩を有している。また、その北部には、六甲山系及び長尾山系といった山並みを有し、その中心には武庫川が流れており、豊かな自然環境を特徴としている。」と挿入し、
その(四)の二行目「計画に対する地域住民の」を、
「計画に対しそれまで地域住民から提起されていたパチンコ店は青少年の非行化を招き、犯罪の温床になりかねないとの」と訂正する。
2 本件条例の目的
本件条例一条の目的規定、並びに、本件条例が、前記のとおり宝塚市の自然的及び文化的に良好な環境を保全し推進することにより市民の快適かつ文化的な生活の確保を目指す債権者の町づくりのために制定された宝塚市環境基本条例をはじめとする環境保全条例の一つと位置づけられていることからすると、本件条例は、第一に、良好な住宅、自然及び文化環境の保持という積極的な環境政策を目的とするものと理解される。
しかし、本件条例の目的は右にとどまらず、前記のとおり、本件条例が地域住民から提起されていたパチンコ店は青少年の非行化を招き、犯罪の温床になりかねないとの反対運動を契機として制定されたこと、本件条例一条も単に良好な環境の確保を目的とすると規定するにとどまること、本件条例が対象とする施設がいずれも風俗営業に関するもので、これら施設の建築阻止に向けての規制が端的かつ強力に前記悪影響の発生防止する手段であるということに照らせば、パチンコ店等の一定施設の存在により右のような悪影響の発生を防止することをもその目的に取り込んでいるものと解される。
3 本件条例の規制方法
本件条例は、パチンコ店等の建築等をしようとする者においては宝塚市長の同意を得なければならないという建築規制の手法を採用するものである(三条)が、同時に、同店等についての建築禁止区域を規定すること(四条)によって営業禁止区域を定めるという規制の実態を有する。のみならず、本件条例では、宝塚市長は、都市計画法上の商業地域以外の用途地域でのパチンコ店等の建築を例外なしに一律全面的に不同意とする旨規定されている(四条)。
二 本件条例と風営法の抵触関係について
1 風営法の目的との関係
風営法一条によれば、同法は、善良な風俗と清浄な風俗環境を保持し、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業等について営業時間、営業区域等を制限し、あるいは、年少者による営業所への立入等の制限をするといういわゆる警察的・消極的目的とともに、健全な風俗営業が国民に社交、憩い、娯楽の場を提供するという観点から、その業務の適正化を促進する等の措置を講じて風俗営業の健全化を図るという積極的目的とを有するものと理解され、これを受けて制定された県条例も同様の目的を有する。
そして、本件条例における青少年の非行化や犯罪の温床となること等の悪影響発生の防止という目的は、風営法の警察的・消極的目的と同一といえる。また、風俗営業関係の建築物の存否ないし存在の仕方によって形成される風俗環境は、当該地域における住宅、自然及び文化環境と不可分に影響し合うものというべきものであることからすれば、風俗環境の保持はまさに住宅、自然及び文化環境の保持の重要な一部をなすものとみることができる。したがって、本件条例における積極的に環境政策を実現するという目的との関係においても、風営法の善良な風俗と清浄な風俗環境の保持という目的は同一のものと理解される。
右のとおり、風営法と本件条例の目的は、たしかに、それぞれの目的全体との関係で表現するとすれば、双方の目的が相当な部分で共通し、重なり合うものともいえるが、目的の同一性に関する観点を風俗環境の保持というものに限定した場合には、ほぼ同一の目的を有する関係にあるということができる。
2 風営法の規制方法との関係
風営法の規制方法(三条)は、風俗営業を行おうとする者は公安委員会の許可を要するという営業規制であるところ、前記のとおり、本件条例の規制方法は、建築規制の形式をとりながらも、実質的には建築禁止地区の規定を介在させて営業禁止地区を規定しているというものであるから、風営法と本件条例の規制方法は実質的・機能的には同一とみることが可能である。
3 風営法による規制の趣旨
(一) 風営法制定前における風俗営業等の規制に関する基本法規である風俗営業等取締法(以下「旧法」という。)のもとでは、風俗営業の規定、風俗営業の開業についての都道府県または市町村の各公安委員会による許可という規制を法律レベルで行うとともに、風俗営業の規制が各地方の実情に応じて行われてきたことを踏まえて風俗営業の規制を都道府県の条例に委ねていたものである。ところで、旧法は昭和四七年以降には実質的な改正がなされず、風俗環境の激変への対応の遅れを生じ、また、前記各地方ごとによる風俗営業の規制が区々であるとの問題状況が現実化したことから、右規制の全国的な統一を図る必要が生じた。
(二) 旧法は昭和五九年に改正され、風俗営業等の規制に関する基本法規として風営法が成立するに至ったものであるところ、風営法では、目的を明記し、旧法下において都道府県の条例により区々的に規定されていた風俗営業の場所的規制につき政令でその基準を設定することとして全国的に統一するものとしている。
そして、風営法は、場所的規制としての営業不許可事由に「営業所が、良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき」を規定し(四条二項二号)、右基準を規定する政令である風営法施行令は、右にかかる地域を規定し(六条一及び二号)、とりわけ、制限地域の指定を行う際の具体的基準中に「当該施設の敷地の周囲おおむね百メートルの区域を限度と」すると規定し(六条二号)、文言上、右基準が全国的な最低限度の基準であることと一致しない面を有しているとともに、これら制限地域の指定が、風俗営業の種類、態様その他の事情に応じて、良好な風俗環境を保全するために必要最少限度のものであるべきことを明記している(六条三号)。これらの規定を受けて、県条例では、準工業地域につき、学校、図書館または保育所の敷地から一〇〇メートル以内の地域、病院または有床診療所の敷地から七〇メートルの敷地内では、パチンコ店の建築を許可しないとする。
(三) 風営法においては、風俗営業の場所的規制につき市町村の条例に委任する旨の規定なり、右のような規制を市町村が風営法とは別個独自に条例において規定し得ることを窺わせる条項は、いずれもみあたらない。
むしろ、風営法が規定する風俗営業の場所的規制というものが、営業活動に対する規制よりも高次かつ強力な開業自体に対する許可制であること、風営法は、同法所定の許可基準が充足されれば、公安委員会において風俗営業を許可しなければならないと解されるなど、風営法及び県条例の右規制が風俗営業の場所的規制につき最高かつ最大限度を画し、市町村の条例による独自の規制を予定していないという法体系がみてとれる。
(四) 右によれば、風営法は、風俗営業の場所的規制につき全国的一律に施行されるべき最高かつ最大限度の規制を定めたものと理解される。
4 小括
以上のとおり、風俗営業の場所的規制に関し、本件条例は、風営法及び県条例と規制目的を同じくし、実質的に同様な規制方法をもちいて同一の規制効果を実現するものであり、しかも、風営法による右規制が全国的一律に施行されるべき最高かつ最大限度の内容であるとすると、本件条例は風営法及び県条例に抵触し、効力を否定されることになるというべきである。
なお、右抵触関係に基づく本件条例の効力の否定という結論は、本件条例制定の地域的必要性の存在のゆえに覆されるものではない。また、風営法及び県条例の規制と地域の実情との乖離が生じた場合には、地方公共団体が都市計画における用途地域の変更を通じて対応する法的システムを採用しているものと理解され、風営法及び県条例の規制内容以上に強度な規制を内容とする市町村の条例制定をもって解消するということは、風営法が予定していないものというべきである。
三 本件条例と建築基準法の抵触関係について
1 建築基準法の目的との関係
建築基準法は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的として掲げ(一条)、旧来の警察的・消極的目的を有することは明らかであるが、それとともに、同法第三章中の用途地域との関係での建築規制内容によれば、同法が、用途地域の指定を介在として、当該地域における計画的な市街化を図り、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を保護し、良好な都市環境を保護することも目的に含ましめているものというべきである。
そして、本件条例は、前記のとおり、良好な住宅、自然及び文化環境の保持という積極的な環境政策を目的の一つとしているものであるところ、そこに掲げられている各種の環境内容は、それぞれ建築基準法が保護しようとする都市環境の一部をなすものと理解される。したがって、本件条例の右目的の観点からすると、本件条例と建築基準法の目的は同一ということができる。
2 建築基準法の規制方法及び同規制の趣旨との関係
(一) 本件条例四条と建築基準法四八条は、ともに建築に関する区域規制の方法を採用し、かつ、右規制にあたっては用途地域を指標とする。
(二) そこで、本件土地が所在する準工業地域内でのパチンコ店等建築への対応をみると、建築基準法では、これを禁止する規定を置いていない(四八条一〇項、別表第二(へ)項参照)のに対し、本件条例では、右店舗建築に要すべき宝塚市長の同意を与えないものと規定し、右建築を例外を認めず全面的に禁止する規定構成となっており(三条、四条参照)、本件条例の規制方法は建築基準法のそれを超える厳しい内容のものといえる。
(三) そして、建築基準法では、地方公共団体が独自に条例により右のような規制を行える旨を規定していないことはもちろん、右条例制定の可能性を前提としたと窺われる規定すら認めることはできない。また、本件条例に関係する地方自治法二条三項一八号では、土地の利用に関する規制については法律の定めるところにより地方公共団体の所管事務とされているところ、都市計画法では、用途地域等の地域地区内における建築物等に関する制限は同法が特に定めるもののほかについても法律事項と規定されており、地方公共団体が本件条例のような規制を独自で行うことを予定していない。さらに、都市計画法及び同法施行令並びに建築基準法の各規定(都市計画法八条、九条、一五条一項二号、同法施行令三条、建築基準法四八条参照)の内容及び関係をみると、右の各法律は、住居地域、商業地域等の用途地域ごとに建築可能な建築物をあらかじめ定めておくこととし、地方公共団体が目的とする町づくりの実施方法については、都市計画における用途地域の決定及びその変更ないしは特別用途地区の設定を通じて行うとの法的システムを選択しているものと理解される。
3 小括
右のとおり、建築基準法は、本件条例のような、地方公共団体の条例により独自の規制をすることを認めるものとは解されない。そして、本件条例が、建築基準法と規制の目的ないし趣旨を同じくし、かつ、建築基準法の建築制限を超える厳しい規制を行っていることからすると、本件条例は建築基準法に抵触し、効力を否定されることになるというべきである。
四 結論
以上のとおり、本件仮処分申立は、被保全権利の発生根拠として債権者が主張する本件条例の効力が否定されることから、右権利の存在についての疎明がないことにより、その余の点について判断するまでもなく、債権者による本件仮処分決定に関する申立は理由がない。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判官 沼田寬)